大栄カントリーに「通知書」を出したが、戻って来たのは、「パワハラ行為があったというなら、具体的な証拠を示せ。パワハラ行為はない」旨の誠意のかけらもない内容だった。
しかし、実際にはJさんの携帯電話に、不可解な内容の多数のメールなどが残されていた。
まずは遺書(以下、適宜抜粋)。
「S(専務)サンの性欲処理・・・毎日ゴミ箱のような扱いを受けながら、信用しろと押し付けられ頼るあてもなく自殺を選びました。・・・Sさんに言われたお前なんかいなくていい。お前はゴミ箱。いるだけで迷惑。散々パワハラを受けてきて今日まで我慢してきました。お母さん産んでくれてありがとう。Sさんに出会ったここ半年間本当につらくて誰にも頼れなくて毎日死にたいと思ってやっと辿り着けました。天国のおばあちゃんのお墓に入れてください。今までありがとうございました」。
弁護士はこう続けた。
「お兄さんはじめ、A子サンのご遺族方は、今読み上げたA子サンの遺書を見て、大栄カントリーのS氏によるハラスメント及び大栄カントリーによる容認体制が、A子サンの自死の原因であると確信を持つに至りました。
また当時、大栄カントリーの従業員であった(記者会見した)Bサンさんは、A子サンの自死の直後に、成田警察署から電話による事情聴取を受けることになりましたが、S氏から『余計なことは言うな』と指示を出され、当該電話による事情聴取も、車の中でS氏が隣に座って監視している状況下で行われました。
さらにS氏は、Bサンを含む大栄カントリーの従業員に対して、『A子サン及びA子サンの友人でアルバイトキャディをしていた人物は、薬物関係で警察が内偵中であるので、今後A子サンやその関係者には接触するな』といった指示も出しております。
なお、A子サンの自死の現場にあったA子サンの鞄の中には、通常の手段では入手が難しい薬物が発見されていますが、A子サンのスマートフォンには、S氏から薬物を受け取ったと予測されるやりとりも散見しており、S氏が当該薬物と無関係とは到底思えない状況でございます」。
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自殺教唆罪
自殺の決意を抱かせ、人を自殺させた場合に自殺教唆罪となる。 この決意は相手の自由な意思決定による必要があり、暴行や脅迫などでの強要による場合には、その決意は自由な意思決定とは言えず殺人となる。
(1)脅迫罪
「自殺をしないと殺す」などのメッセージを送る行為は、脅迫罪に該当する可能性があります(刑法第222条1項)。
脅迫とは、生命、身体、自由、名誉または財産に対する害悪の告知をすることをいいます。そして、相手方を畏怖させることができる程度の害悪の告知があった場合には、脅迫にあたります。
上記のメッセージを受け取った方が、自殺に及ばなかったとしても、当該メッセージによって恐怖心を抱いた場合には、脅迫罪が成立する可能性があります。
なお、脅迫罪の法定刑は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金と規定されています。
(2)強要罪
上記と同様の事案では、強要罪に該当する可能性もあります(刑法第223条1項)。
強要とは、暴行・脅迫を手段として人に義務のない行為をさせ、または行うべき権利を妨害することをいいます。脅迫罪における脅迫と同様に、相手方を畏怖させることができる程度の害悪の告知をして、自殺を強要する行為は、強要罪に該当します。
「自殺しないと殺す」などのメッセージを送った時点で実行の着手があったといえますので、その後、本人が自殺を思いとどまったとしても、強要罪の未遂が成立することになります。
なお、強要罪の法定刑は、3年以下の懲役と規定されています。
(3)殺人罪
自殺教唆罪は、自殺をそそのかされた本人が自由な意思決定に基づき自己の生命を絶つという点に特徴があります。そのため、単なる自殺の教唆にとどまらず、本人の意思決定の自由を奪う程度の脅迫が手段として用いられた場合には、自殺教唆ではなく、殺人罪の間接正犯が成立する可能性があります。
間接正犯とは、事情を知らない方や善悪の判断ができない方などを道具のように一方的に支配・利用して、犯罪を実行することをいいます。刑法に規定されている犯罪類型は、原則として、自ら単独で犯罪を行うことを予定したものとなっています。しかし、他人を利用して行った犯罪についても単独犯と評価できるものが存在します。それが間接正犯と呼ばれるものです。
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